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チキンラーメン 3

 ご夫妻は、突然の私の来訪にちょっと驚かれましたが、やがてサアサアと招き入れてくれました。そしてただならぬ殺気の若造の私に二人して謝るのです。「仕事が頼めなくなってごめんごめん」と。私は生意気にも逆にボスの事を詫びました。感情的にはボスが、この困り果てた老夫妻を見捨てたと思ったのです。施工は、ご夫妻に助け船を出した、とあるビルダーが責任施工で行うということでしたが、私は一人、それでは納得しません。結局、私はそれから工事の期間、会社とは関係なしに日曜日の休みごとにご夫妻を訪ね、一緒に現場を見に行くという大胆なことをやってのけました。振り返ればボスにはあきらかな背信行為。先年、鬼籍に入られたボスには、いつか向こうで詫びなければと思います。監理者の資格のない私は、現場で気付いたことをご夫妻に伝えて、ご夫妻から施工店に伝えると言うやり方で、半年近い工事を見つめ続けたのです。ご夫妻から、ある日、赤面しながら打ち明けられたことがあって、瞬間、皆で凍り付いた空気も良く覚えています。それは、独特のトイレの所作です。当時、ウォシュレットは製品としては出始めていましたが、まだ一般的な普及をしていると言う風でもありませんでした。「私たちは、紙を使わない」とトイレ内の低い位置に手洗い器のような水場を設け、常にそれで洗われると言う一連の所作を教えてくださったのです。私はそのための設えを図面に織り込んだものです。住まいの設計とは、そこまで住まい手の暮らしに入り込まなければならないということをその時に悟りました。変な言い方ですが、「覚悟」のようなものをもったのはその時だったかもしれません。ご夫妻は私を子か孫のように可愛がってくださって、ご夫妻との交流はその後もずっと続きます。住まいが建て終わる頃には、たまに顔を見せに行かなければ叱られる親戚のようになっていました。

 チキンラーメンを一緒に食べたあのマンションから、新居に引っ越されたご夫妻は本当に幸福そうでした。敷地中を見事な花壇で彩り、畑もされていました。花壇は地域でも有名になり、他所の人が見に来るくらいでした。私が遊びに行くと、奥様があれこれと甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれ、ご主人がそれを窓辺に座られ、見守っています。歓談しながら、琥珀色のヤニ取りパイプに刺した煙草をにこやかに吸いながら、顔を外に背けて、煙を屋外に吐く姿は何処までも紳士的でした。新居でも、何度かチキンラーメンをご馳走になったかもしれません。今度は畑のものがトッピングされていました。(つづく)

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