建築YA「髭」のCOLUMN

福岡を中心に住まいづくりをする建築YAのコラム
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映画「マイ・アーキテクト」
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     少しマイナーな映画の話をしたい。ルイス・カーンというアメリカの建築家をご存知だろうか。およそ建築系の学校を出た者に取ってはこれほどの巨匠の事を知らない人はいないと思うが、一般の方には馴染みの薄い名前かもしれない。例えば今はやりのモダンインテリアにおいて、フランスのコルビュジェにはLCシリーズやシェーズロングという名の寝椅子があるし、ドイツのミース・ファン・デルローエにはバルセロナチェアがある。彼らは今も家具などに名を残す。それに比べれば、計画数はまだしも、実施となった作品の数も少なく、アメリカとインド周辺の一部の地域にしか痕跡がないカーンの存在は、少しマニアックだと言えるかもしれない。
     しかし、およそ建築を志す者にとって、カーンの著述はまさに宗教で言うところのヴァイブル(聖典)であり、彼が残した作品はその時代の記念碑的建築であると言える。公には中年期から求めに応じ教壇に立ち、彼は自分の事を建築家である前に建築を志す者にとっての教育者であると語っている。私的には、大変謎の多い人であった。
     顔に大きなやけどの跡を持ち、小柄な彼は秘密主義者だった。結果として、彼は3つの家族を重複して持ち、腹違いの3人の子を持つ。最晩年、遺作となるバングラディシュの国会議事堂の建設に携わり、帰国後間もなく突然の死を迎える。ペンシルバニア駅構内のトイレの中で、心臓マヒによる孤独な死。意図はわからないが彼は身分証にも現住所を記さなかったために3日間遺体安置所に留め置かれた。
     これらことを知っても、ストーリーの楽しみ方には影響がないので事実だけは述べたが、このカーンの子供の一人であり唯一の息子が、映画監督として父ルイス・カーンを追った。「マイ・アーキテクト」というドキュメンタリー映画である。2003年の映画だが、勿論ハリウッドの娯楽映画ではないのでロードショーにかかるわけでもなく、じわりじわりと単館上映を重ねてきていた。私は先月東京渋谷のとある映画館で上映しているのを知り、観たくてスケジュールの調整をしたが、結局果たせず帰福して悔しい思いでいたが、ようやく福岡にやってきた。25日までシネテリエ天神で上映中。念願かなって、先日観てきたが、観る人によってきっといくつかの観方が出来る。
     まず建築を学ぶ人か好きな人には、たまらない映画である。フィリップジョンソンが自邸の「ガラスの家」の中で主人公であるカーンの息子のインタビューに生き生きと答えているし、パリのルーヴル美術館のガラスのピラミッドで知られるIMペイも、ウイットに富んだコメントを寄せている。フランクOゲイリーもインタビューに答えている。建築家の巨匠、ルイス・カーンが周囲の著名人たちによりスクリーンの向こうに息を吹き返す。それは単なるポートレートの羅列ではなく、美しい作品とともに彼の意志、観念が蘇る感覚になるのだ。
     また、建築の事をあまり知らない人には、一人の建築と共に生きた男の生き様と、11歳のときに突然永遠の別れを余儀なくされた息子との親子の心象風景に触れる事が出来る。一緒に暮らす事はなかった父カーン。いつも突然に現れ、またいなくなる。主人公は時系列で彼が残した作品を見つめていきながら彼なりの等身大の価値感で偉大なる父を理解しようと試みる。最後のバングラディシュ国会議事堂までの長い旅は、心の旅であり、親子の再会の旅であり、また別れの旅ともなった。美しい映像と、巨匠カーンを
    取り巻くそれぞれの登場人物の心のひだに触れる事が出来る.
     およそ足元にも及ばないが、一人の建築に関わる人間の端くれとして、私は、私が建築という生涯の玩具(玩具というには壮大過ぎるが)を手にする事が出来た喜びと、その玩具を持ち続けることの業(ごう)のようなものをこの映画の中に投影して観ていた。並大抵の人生ではない。畳の上では死ねないなどというと時代錯誤も良いところだと笑われそうだが、カーンの生涯を見ているとあながち冗談でも済まされない恐怖感におそわれる。覚悟が求められているようで怖くもあるが、また強く憧れる世界でもある。
     いずれにしても、一人の人間の一生のもがきは、誰しも一本のドキュメンタリーになり得るというひとつの証明をした映画である。軽薄で不信感ばかりが目立つ近頃の世の中にあって、人間としてもがく事を久々に教えてくれる映画だった。
     私たちはトレーシングペーパーという半透明の紙をスケッチに使う。描いては紙を重ね、下の紙の重要な線だけを辿って思考のエッセンスを沈殿していくという作業が計画の中で行われるが、この紙の透過度を調整するために紙を黄色く染めさせたのは、カーンのアイデアだと何かで読んだ事がある。それ以来、私も少しでもあやかるように黄色いスケッチペーパーを使っている。「建築の神様」が、降りてくださるように...。
    | 建築・デザイン | 09:17 | comments(0) | trackbacks(1) |
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      「マイ・アーキテクト」を観た!
      「マイ・アーキテクト」のパンフレット ルイス・カーンの映画だという「マイ・アーキテクト」の存在は、昨年の5月頃には知ってはいたが、いつどこで上映されるのかまったくわかりませんでした。どういう経緯なのかはわかりませんが渋谷「Q-AXシネマ」のオープニングに
      | とんとん・にっき | 2006/08/05 4:51 PM |
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