個性と個性のぶつかり合いが、化学変化して新しいものを産み出すようなところが住まいづくりにはあって、住まい手の純粋な希望と、私たちの経験値と、また様々な外的要因とが織り交ぜられながら、その土地にその住まい手特有の個性豊かな住まいが出来上がる。住まい手が完璧なビジョンを持って、プランまで頭の中で浮かべることが出来ているのならば、私たちの存在はいらないし、また私たちが不特定多数を見据えて汎用性の平均値で発想すれば、住まい手の存在も必要ない。しかし、面白い住まいづくりはまさにその両者が膝つきあわして、ああでもないこうでもないと言い合っているところから、想像だにしないものが生まれてきたりするのである。私が手がけさせていただいた住まいを見ても、ひとつとして同じものはなく、また、リアルには不可能だが写真などで並べてみるとどことなく共通点があるようにも思えるのは、住まい手の個性と、私の経験値や私の提案という共通性に他ならず、それが化学反応を起こして一棟一棟が全く別のものになっていると言って良いのかもしれないのである。
設計事務所と住まいづくりをしたほうが良いかどうかと言う判断は、まさに住まい手に委ねられるが、私たちは対峙するのではなくて、ともにゴールに向かって走る伴走者のような存在でいたいと思う。そして何もない更地から、暮らしが始まってからの長きおつきあいまでもを精一杯をともに楽しむ存在でありたいと思っているのである。